【BIS】数値を見るだけからの脱却へ

麻酔

皆さんは脳波モニタリングを常時使用していますか

日本麻酔科学会では『安全な麻酔のためのモニター指針』の中で、筋弛緩モニターと同様に脳波モニターについても取り上げられています

そこでは「 “必要に応じて” 装着する」となっており、筋弛緩モニターと比べると重要度は低いのかなと感じてしまいます

しかしこの脳波モニタリング、皆さんの日々の臨床でとても役に立つポテンシャルを持っていることは間違いありません

ぜひ最後まで読んでいただき、早速多くの臨床現場で試していただければ幸いです

今回の参考図書は雑誌『LiSA』になります

以降は脳波モニタリングの中でも代表格である「BIS (Bispectral Index)」についてお話を進めていきたいと思います

(MEDSi)株式会社 メディカル・サイエンス・インターナショナル / LiSA 2005年10月号
https://www.medsi.co.jp/products/detail/3003

モニター項目

まずBISと言えば、多くの方が“BIS値”のことを考えるのではないかと思います

例えば、

“全身麻酔の維持ではBIS値を50くらいにしておこう”

“BIS値が30台なので、鎮静薬を減量しよう”

等々..

実はこのBIS値だけを見ていると、大きな判断ミスを起こしかねません

そこで今回は、

『BIS値だけを鵜呑みにすることから脱却しよう』

をテーマに読んでいきましょう

BIS値というのは、

規則性に変化する脳波を数値化したもの

麻酔深度を表しているのではなく、あくまでも脳波の変化を表したものになります

数値化する計算式は明らかになっていませんが、

データとしては、イソフルラン、プロポフォール、チオペンタール、ミダゾラムと笑気、フェンタニルの併用を脳波から取得しているとのことです

この薬をこの程度投与すると、脳波はこのような波形に変化していく

といったデータを大量に蓄積して、それを企業秘密の計算式のもと数値化しているのです

その大量のデータから、BIS値が上昇する原因として “麻酔が浅い” ということもありますが、

その他にも、鎮痛不足によるものやノイズである可能性もあるのです

ちなみに、上記のデータ取得対象となった薬剤ではない、セボフルランやケタミン、レミフェンタニル併用等は、臨床の中で大量のデータが蓄積されており、BIS値の信用性は高くなっています

では、今目の前で起こっているBIS値の上昇が、一体何が原因で起こっているのか

これを判断する手段は何があるのでしょうか

大きく分けて2つあります

  1. 他のモニター項目を見る
  2. 波形を見る

1つ目に挙げた他のモニター項目について以下に示します

BIS値を含めて4つの項目があります

これらの指標を掛け合わせて見ることで、より正確な判断ができるようになるのです

「BIS値が上昇しているけれど、EMGが混入している」

→ 筋電図ノイズが原因かもしれないし、鎮痛不足の可能性もある

「BIS値が上昇しているけれど、SQIやSRは上昇していない」

→ 麻酔が浅い可能性が高い

といったように、BIS値単独と比較して正確性が上がります

脳波

BIS値の変動の原因を最も確実に判断するためには、「波形を見る」必要があります

脳波の波形は、振幅と周波数で決まります

まずは振幅についてです

振幅は波の上から基線までを垂直に引いた線の距離になります

麻酔薬の濃度が上がれば上がるほど、振幅は大きくなります

これを高振幅化と言います

次に周波数についてです

周波数は1秒間に何個の波があるかを表します

周波数によってそれぞれ名前がついており、α波やβ波と言います

ここでは分かりやすくするため、3つの周波数だけを示します

麻酔薬の濃度が上がれば上がるほど、周波数は低くなります

これを徐波化と言います

基本的には徐波になれば振幅は大きくなり、2Hz(δ波,徐波)でおおよそ25μV(高振幅)となります

ここで実際の脳波をお見せします

確かに振幅と周波数で成り立っていますが、このように波形は複雑です

この脳波を見るだけでは、振幅と周波数の関係は分かりづらいかと思います

そこで、この2つの関係性を詳細に理解するために考案された解析方法を紹介します

パワースペクトル

パワースペクトルと言い、横軸が周波数で縦軸がパワーとなっています

グラフ上見やすくするために、振幅を二乗したものをパワーと表記しています

ご覧の通り、関係性は一目瞭然となります

実際、BIS値を出すためにもこの解析を行なっているそうです

しかしこのパワースペクトルでは、どのあたりの周波数帯に分布しているかまでは分かりません

そこで次にSEF95(spectral edge frequency 95%)を用います

SEF95

SEF95は0-30Hzのパワースペクトルの面積の95%を占める周波数を示します

複数の脳波が掛け合わされた波形を見て、どのあたりの周波数帯が大部分を占めているのか、これがこの数値からわかるのです

ここまでの説明から、

「BIS値が上昇しているけれど、波形が高振幅徐波化している」

→ 麻酔薬は適正であり、ノイズによりBIS値が変化している

と判断できるのではないかと思います

麻酔薬による波形の違い

それではここからは麻酔薬による波形の違いについて見ていきたいと思います

基本的には麻酔薬による意識消失は自然睡眠と波形が似ています

自然睡眠は7-14Hzの周波数であり、α波がメインとなります

麻酔薬により意識が消失すると、視床から10Hzのシグナルが大脳皮質に送られます

周波数がほとんど同じであることから、波形も似てくる訳です

具体的に吸入麻酔薬であるイソフルランと静脈麻酔薬であるプロポフォール、笑気を使用した脳波を見ていきましょう

吸入麻酔薬

吸入麻酔薬であるイソフルランは、濃度依存性に振幅の増大と徐波化みられます

濃度依存性にBIS値も低下していきます

いわゆる典型的な波形と言えます

静脈麻酔薬

一方で静脈麻酔薬であるプロポフォールは、濃度が上がっても振幅や周波数の変化が乏しいのが特徴です

BIS値の変化も吸入麻酔薬と比べると乏しいです

ただこの波形の変化をパワースペクトルで解析してみると、濃度依存性にδ波(徐波)は増えているので、振幅に反映されにくいという判断ができるかと思います

笑気

では笑気についてはどうでしょうか

そもそも笑気は高振幅や徐波化はみられません

むしろ速波化します

α波がメインとなるセボフルランに笑気を併用してみると、δ波が優位の波形へと変化するのです

使用麻酔薬によって波形の違いまで把握することができれば、間違いなくBIS値を鵜呑みにすることからは脱却できたと言えるでしょう

BISモニターの役割

最後にこのBISモニターの役割について触れておきましょう

ズバリ「浅麻酔を防ぐ」「深麻酔を防ぐ」

この2つがBISモニターの役割と言えます

浅麻酔を防ぐことはつまり、術中覚醒を防ぐことに繋がるでしょう

術中覚醒とは、“全身麻酔中に術中の出来事を覚えていること”です

覚醒することが問題なのではなく、記憶が残ることが問題になるのです

術中覚醒既往患者は、徐波化しにくく、BIS値も下がりにくいと言われています

このことから麻酔薬の感受性が低い患者は存在し、それは脳波モニタリングでも判別ができる可能性があるということがわかります

この術中覚醒は、鎮静と痛み刺激の2つのバランスが崩れることから生じると言われています

BISモニターを使って適切に判定するためには、大前提として適切な鎮痛が必要不可欠となるでしょう

ひとたび、過度の鎮静や鎮痛となれば平坦脳波が現れ、SRが上昇することになります

こうなる前に波形を見て判断できれば、未然に循環抑制を防ぐこともできるでしょう

そしてその先には、患者の生命予後まで変え得る可能性を秘めています

残念ながら今のところ(2022.12)明らかな有意性を示す論文はなさそうですが…

最後まで読んでいただきありがとうございました

どうですか

おそらく脳波モニタリングのポテンシャルを存分に味わえたかと思います

今後、麻酔管理の必須モニターの1つとしてぜひご活用ください

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