![](https://anesth-beginner.com/wp-content/uploads/2022/03/8DCC4DC7-5768-4AC3-90FE-A175280C5B9D-1024x952.jpeg)
セボフルランを代表とする吸入麻酔を学ぶ上で欠かせないのが、いくつかの大事な用語です
今回はそこから振り返ってみて(学生時代に1度は聞いたことがあるはず)、吸入麻酔薬の理解をより深めていただけたら良いなと思っています
それではさっそくいってみましょう
血液ガス分配係数
吸入麻酔薬といえば、「血液ガス分配係数」ですね
これは、吸入麻酔薬の “血液への溶けやすさ” を示す指標となります
ズバリ、われわれ麻酔科医にとって大事な
素早く導入して、素早く覚醒させる
この条件をわかりやすく数値化したもの、と言っていいでしょう
TIVAで言えば、CSHT(Context-sensitive half-time)にあたるものですね
セボフルランの血液ガス分配係数は
0.63くらい
他の吸入麻酔薬と比較してみましょう
イソフルラン 1.43くらい
デスフルラン 0.42くらい
つまり、
デスフルランよりは血液に溶けやすいけど、イソフルランよりは圧倒的に溶けにくい
となります
ここで間違いやすいので、確認しておきます
吸入麻酔薬は図のように
(セボフルランを意識して黄色にしたのですが、ビールにしか見えませんね 涙)
![](https://anesth-beginner.com/wp-content/uploads/2022/03/C3AEBC0A-8A1D-4C57-89F7-11AE70885AFB.jpeg)
肺(肺胞) → 血液 → 脳の順で満たされていきます
そのため容易に血液に溶けてしまうと脳に達するまで時間がかかってしまうのです
なかなか麻酔がかからないわけですね
反対に覚醒させる場合でも、
吸入麻酔薬は呼気からの排泄がメインになります
血液に溶けてしまった薬物は肺からの排泄は難しいですから、麻酔から覚めにくくなるのです
つまり、血液に溶けにくい方が吸入麻酔薬としては優れていると言ってもいいかもしれません
MAC
続いて、吸入麻酔薬を学ぶ上で「血液ガス分配係数」と同等によく聞くワード、「MAC」についてお話ししていきます
![](https://anesth-beginner.com/wp-content/uploads/2022/03/5043C9D1-CF9B-4A59-B2EC-424F430F48BE.jpeg)
MACとは最小肺胞濃度のことで、
“皮膚切開 ”相当の刺激に対して “半分の確率” で “動かない” 濃度ということです
これは決して麻酔薬の強さを表す値ではありません
他の吸入麻酔薬と濃度の比較をする指標として使う程度のものです
となると、
これ、麻酔科医にとっては臨床的にあまり参考にならない数値であることは何となくわかりますか
まずは“皮膚切開”というところ
局麻レベルの侵襲である手術であればまだしも、全身麻酔症例で皮膚切開しただけで動くって..と思ってしまいますよね
さらに“半分の確率”ということは、解釈によっては半分の確率で動いてしまうということですよね
これでは正直、参考にできないです
そして、“体動”というのは痛がっているのか、起きているのかその辺りも不明確ですよね
まとめます
・侵襲度が高い全身麻酔症例には不適応
・適中率が低すぎる
・対処方法が不明確
やはり臨床の中ではあまり役に立たないなと思ってしまいますよね
そこでもう少し臨床的に、ということで
MACの考え方をアレンジしたものが
MAC-BARやMAC-awakeという考え方です
MAC-BARは体動ではなく、交感神経反応の有無となります
より痛みの度合いを示しそうですよね
MAC-awakeはその名の通り、覚醒度合いを示します
セボフルランの値はそれぞれ
MAC-BARはMACの2.2倍くらい
MAC-awakeはMACの0.3倍くらい
MAC-BAR > MAC > MAC-awake となります
それでも臨床ではセボフルランだけで麻酔を維持することはほぼありません
となると、オピオイドとの関連が大切になってきます
実は相互作用では下記のようになります
![](https://anesth-beginner.com/wp-content/uploads/2022/03/EED3B579-C2C7-49B5-AC47-591BCEBDA970.jpeg)
ここでのポイントは両者が異なる相互作用を起こすことです
MAC-BARはオピオイドの血中濃度が高くなると、みるみる低下していきます
そして両者の値がどんどん近づいていくのです
下のグラフをご覧ください
![](https://anesth-beginner.com/wp-content/uploads/2022/03/8EC4F334-EB32-474E-8450-9AADFB88FAAA.jpeg)
フェンタニル使用下では血中濃度が5 ng/mlとなると
ほぼ MAC-BAR ≒ MAC ≒ MAC-awake となるようです
ここから何が読み取れますか
そう、
オピオイドに頼りすぎると、交換神経反応が起きる前に覚醒している可能性がある
ということです
MACを今まで臨床で使うことがほとんどなかったかもしれませんが、
このように使うことができる、と分かれば
さらに麻酔という分野が面白いな、と思えるのかもしれませんね。
各器官への影響
続いて、セボフルランが各器官にどのような影響を及ぼすかをみていきます
循環系
循環系はご覧の通り心収縮力を低下させます
ただし血管拡張から生理反応で心拍数が上がるため、
結果的には心拍出量は変わりません
![](https://anesth-beginner.com/wp-content/uploads/2022/03/D5C8B817-5C42-4A25-BF44-527E20593AA2.jpeg)
呼吸器系
呼吸器系では1回換気量が減少します
それに伴い呼吸数は増加しますが、用量依存的に分時換気量は減少していきます
術中、人工呼吸器の設定を変更する必要性が出てくるかもしれません
![](https://anesth-beginner.com/wp-content/uploads/2022/03/A941D895-82CC-4E70-A62B-46497AB839D0.jpeg)
中枢神経系
そして、中枢神経系です
こちらは脳外科手術の麻酔を行う際に必須の知識となります
![](https://anesth-beginner.com/wp-content/uploads/2022/03/BED576A3-C57C-429B-961D-E2B64C20EA3C.jpeg)
くも膜下出血や脳腫瘍手術では脳血流量を増加させたくないことから
吸入麻酔ではなく、静脈麻酔を選択する機会が多いと思います
実際はしっかりと1MAC下で使用すれば、自己調節能が働き問題になることはないとされています
メリット・デメリット
ここでセボフルランのメリットとデメリットを他の吸入麻酔薬と比較してみてみましょう
![](https://anesth-beginner.com/wp-content/uploads/2022/03/751EDCCB-C44C-4CA0-A39A-169C24392DEE.jpeg)
メリットは何と言っても気道刺激性が低いこと
セボフルランは小児患者への導入になくてはならないものなのです
デメリットについては、2つの代謝物の発生を挙げてみました
しかしこれらは、
いくつかの条件を満たさない限り患者への影響はほとんどないことがわかっています
日本で最も使われる吸入麻酔薬、
その名に相応しいとっても使いやすい鎮静薬ですよね
おまけ
セボフルランをたくさん使用している中で、
覚醒時に患者がせん妄、興奮状態になってしまったことはありませんか
私は何度も経験があります
その度にもう少しセボフルランを早めに切っておくべきだったなと反省する次第です
下の論文はブラジルでの報告ですが、
セボフルランを使用した麻酔で覚醒時にせん妄を起こすリスク因子について調べています
![](https://anesth-beginner.com/wp-content/uploads/2022/03/B54AD8E5-3BF4-4D4A-8BA0-551A6A27D5AC.jpeg)
年齢、民族性、緊急手術、長時間手術が有意な差が出ています
夜間の緊急手術で、術後患者が暴れてしまった時は、
眠気と戦いながら麻酔をしたことが、麻酔戦略に狂いが生じてしまった
と自分のせいにしていましたが、
どうやらそれだけではなさそうですね
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