【術後酸素投与】手術室を退室する時の投与方法について

麻酔

全身麻酔後の酸素投与についてお話ししていきます

多くの施設で術後の酸素投与方法や投与量は麻酔科医の指示で動いていると思います

皆さんの病院では酸素をどのように投与していますか

鼻カテやマスク、2 L/minや5 L/min など、ちゃんと根拠があって指示を出してますか

施設で決まっている指示を、特に何も考えずに出していませんか

酸素指示について少し深掘りしていきましょう

今回はこちらの書籍を参考にさせていただきました↓↓

そこまで分厚い本ではないですが、説明がわかりやすくあっという間に読めてしまう本だと思います

当院では術後酸素をこの3種類で行っています

多くの施設で、少なくともどれかを採用しているのではないでしょうか

1つずつみていきましょう

鼻カニューラ

鼻カニューラはもちろん鼻から酸素を投与する方法です

最大の利点は口が空いていることです

酸素を投与しながら食事をしたり、歯磨きもできます

一方で酸素流量が限られます

なぜならば流量が多いと鼻への刺激が強すぎて、患者に苦痛を与えてしまうからです

多くても3 L/minが限界でしょう

吸入酸素濃度は上記の通りです

ただし、この数値はあくまである条件を満たした場合にのみ適用されます

条件については後ほどお話ししますが、術後にこの条件を満たすことはなかなか難しいのです

シンプルマスク

シンプルマスクは鼻カニューラより酸素流量を増やすことができます

これに伴い、吸入酸素濃度も鼻カニューラと比べて増加します

ただしこちらも鼻カニューラ同様、条件を満たした場合に上記の酸素濃度となります

それではここでその条件について話していきたいと思います

シンプルマスクを例に挙げて考えます

一般成人の方で1回換気量500 ml、吸気時間1 秒、呼気時間2 秒、休止時間1 秒とします

そしてマスク自体の容積を180 ml、酸素を6 L/min (100 ml/s) 流したとします

患者が1回息を吸う(1 秒)と、流れている酸素100 mlとマスク内に充填されている酸素180 ml

合わせて280 mlの酸素が体内に取り込まれます

この際、1回換気量が500 mlであるため残りの220 mlが空気として取り込まれます

もちろん空気にも酸素は含まれますので、それを含め計算すると

吸入酸素濃度は約65 %となります

おおよそ表の通りとなりました

これが条件を満たした例となります

極端な感じはなく、条件を満たすことはそんなに難しくないように思えませんか

ではなぜ術後にこの条件を満たすことが難しいと言っているでしょうか

理由は2つあります

密閉性と呼吸パターンです

密閉性

マスクはどんな患者にもぴったりフィットする訳ではないのです

それどころかマスクがぴったりフィットする患者などまずいないですよね

となると、そもそもマスク自体がリザーバーになるのは無理な話なのです

これをふまえ改めて計算してみると、他同条件で吸入酸素濃度は37 %となります

大きく酸素濃度が下がってしまいました

呼吸パターン

麻酔科医として防ぐべきことではありますが、術後に患者は痛がることがあります

どんなに上手な麻酔管理をしても致し方ない場合もあるでしょう

このとき患者は頻呼吸となります

例として吸気時間0.5秒、呼気時間1秒、休止時間0秒の頻呼吸になったとしましょう

すると計算は上記のようになり、吸入酸素濃度は29 %となります

お気づきかもしれませんが、鼻カニューラと同程度の酸素濃度となってしまいました

なんともお粗末です

仮にこれをカバーすべく、酸素流量を15 L/minに増量したとしましょう

計算上、吸入酸素濃度は61 %となりました

一見かなり上昇したなと思うかもしれませんが、15 L/minで 60 % . . .

鼻カニューラが3 L/minで 30% ですから、正直コスパが悪すぎます

これなら術後酸素は全員鼻カニューラでいいんじゃないかなと思ってしまいます

実際に私が働く病院では、抜管した術後患者は基本的に全員、鼻カニューラにしています

しかもこの鼻カニューラ、紙マスクを併用すれば密閉性も高くなります

ただやはりこの酸素濃度では病棟へ帰すのが不安、

できればもう少し吸入酸素濃度を高くして一般病棟へ帰したい

と考えた場合の方法として、ネブライザー付酸素投与装置があります

ネブライザー付酸素投与装置

ここで麻酔初心者が勘違いしてはいけないことは、

決してネブライザー付酸素投与装置は高濃度酸素投与を行うためのデバイスではない、ということです

このネブライザー付酸素投与装置が、鼻カニューラやシンプルマスクと違うところは

流量を多くできるという点です

これにより患者の呼吸状態を無視できるのです

これは何が良いかというと、先ほどの条件に出てきた『呼吸パターン』を考える必要がなくなるのです

多少痛がって頻呼吸になっていても、投与したい酸素濃度が投与できるのです

一般成人が1回換気量500 ml、吸気時間1 秒とすると毎分30 L/minを吸っていることになります

このことから一般的に30 L/minの流量があれば、どんな呼吸状態であっても投与したい酸素濃度を投与できるということになります

当院で採用している条件は6 L/min、40 %です

下記に計算方法を示しますが、この条件下では流量が24 L/minとなります

少し足りない値ではありますが、これは意図的にこのようにしています

この厳しい条件下で患者の状態が問題なければ、安心して一般病棟に帰すことができるからです

皆さん、どうですか

術後酸素1つとっても奥深いでしょう

たかが酸素、されど酸素です

麻酔科医の皆さんであれば、とても楽しいなと感じていただけたかと思います

おまけ

これは専門医試験でもよく問われるのですが、

バックバルブマスクとジャクソンリース回路の比較表です

麻酔科医としてはジャクソンリース回路の方が馴染みがあると思います

しかし、緊急の病棟挿管依頼で向かうと渡されるのはバックバルブマスクであることが多いです

今回勉強していただいた皆さんであれば、

病棟に駆けつけた時に必死でバックバルブマスクを揉んでいるドクターに

(リザーババッグへの酸素充満を意識して)焦らずゆっくりバックをもみましょう、とアドバイスできることでしょう

今回の参考資料はこちら↓↓

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