【PONV】この合併症さえなければ・・を退治する

麻酔

麻酔科医であれば、麻酔同意書を取得する際に誰しもが説明するであろう『PONV』

これについて今回は話していきたいと思います

PONVとは

2021年にPONVに対して使用可能な薬剤が新たに認可されました

オンダンセトロンとグラニセトロン「術後悪心嘔吐」の保険適応について

これは多くの麻酔科医が待ちに待っていたニュースと言っても良いでしょう

後ほど説明します

まずはPONVとは、からいってみましょう

PONVはpost-operative nausea and vomiting の略です

術後悪心嘔吐は、いくら手術が成功しても患者さんの満足度を著しく低下させてしまいかねない辛い合併症です

A simplified risk score for predicting postoperative nausea and vomiting: conclusions from cross-validations between two centers

しかも予防処置を施さず麻酔をかけた場合、発症率は30%にも上ります

頻度としてもかなり高いことがわかると思います

世界的にも長年にわたりこの問題を解決しようと、ガイドラインも発行され、改訂を繰り返してきました

最新版は2020年の第4回改訂となります

Fourth Consensus Guidelines for the Management of Postoperative Nausea and Vomiting

こちらのガイドラインに沿って説明していきたいと思います

PONVガイドライン

こちらがガイドラインに掲載されているPONV管理のアルゴリズムです

5項目に分かれています

  1. 危険因子を把握する
  2. リスクを低減する
  3. リスク分類を行う
  4. 予防薬剤を使用する
  5. レスキュー治療を行う

危険因子を把握する

まずは危険因子について把握していきましょう

こちらの図をご覧ください

まずは最も関連される項目は「女性」であることがわかります

数値でみると、男性に比べて女性は、約2.6倍PONVが起こりやすいそうです

手術患者が女性というだけで、PONV対策を行う必要があると言ってもよさそうですね

次に関連が強いとされるのが、「術式」なります

ガイドラインに取り上げているのは、“腹腔鏡手術”、“婦人科手術”、“胆嚢摘出術”等です

その他の手術に比べて1.2-1.9倍PONVが起こる可能性があるとのことです

その2つの項目に続くのが、「吸入麻酔薬」「PONV既往」「非喫煙者」になります

これだけPONVの原因が明らかになっていることは、まず知っておかなければなりませんね

このガイドラインのアルゴリズムでは、

危険因子を女性、若年者、非喫煙者、術式、PONV既往、オピオイド使用の6項目としています

リスクを低減する

原因がわかっているのであれば、この原因を排除するという方法ででいくつか対策が考えられるでしょう

それが、次の項目であるリスクの低減方法になります

具体的には、区域麻酔を選択できるのであれば積極的に使用し、全身麻酔を選択せざるを得ないのであれば、吸入麻酔薬を避けて全静脈麻酔を選択する

といったところでしょうか

マルチモーダルに鎮痛薬を使用して、痛みをしっかりとるということもPONV対策となります

リスク分類を行う

その上で危険因子がいくつ当てはまるかを分類しよう、というのが項目3になります

アルゴリズムでは6項目中、1 or 2個と3個以上に分けています

1 or 2個で予防薬を2剤使いましょう

3個以上では予防薬を3 or 4剤使いましょう

ここでガイドラインに取り上げられている発生率のスコア表についても触れておきましょう

1つ目は「Apfel simplified score」というスコア表です

名前は聞いたことないかもしれませんが、こちらは皆さんがよく知っているスコア表だと思います

“女性” “非喫煙者” “PONV既往” “術後オピオイド使用”の4つの危険因子のうち1つ項目が当てはまる毎に約20%PONVの発生率が増加する

というものです

Apfelさんが考えたまさにシンプルなスコア表であり、術前診察等でよく利用してますよね

2つ目が「Koivuranta score」というスコア表です

こちらはPONVではなく、PDNV(post-discharge nausea and vomiting)退院後の悪心嘔吐の発生率を推測するスコア表です

こちらで取り上げられている危険因子は“女性” “PONV既往” “50歳未満” “術後オピオイド使用” “術後悪心あり”の5つになります

1つ項目が当てはまる毎に10、20、30、50、60、80%と発生率が増加します 

この2つのスコア表を見比べてみると、ほとんどの項目が共通しています

それだけこれらの因子が大きく関わっていると言えるのです

予防薬剤を使用する

本題に戻りましょう

リスク分類を終えたら、いよいよ予防薬剤の選択となります

現在日本で主に使用されている主なものは上図の通りです

1つずつ取り上げてみましょう

デキサメタゾン

まずはデキサメタゾン(ステロイド)です

こちらは手術開始後早期に投与します

投与量として多くは4-10 mgと記載されていますが、こちらはリン酸エステルの量で換算されているため、デキサメタゾン量で表記すると3.3- 8.25 mgとなります

日本ではデキサート®︎ 6.6 mgの投与が一般的ですね

PONVに使用するステロイド単回投与では、ステロイドの副作用である血糖や感染に関する点は問題視する必要はないとされています

また鎮痛薬の必要量を減少されるのではないかとも言われており、オピオイドの投与量を減らせる面からも良いのかもしれません

お値段(デキサート®︎ 6.6. mg 1瓶 145円)も含めて最もお手軽に使用できる予防薬剤だと思います

ドロペリドール

次はドロペリドールです

手術終了時に0.625-1.25 mg静注します

ドロレプタン®︎ 1瓶 25 mg/10 ml ですので、0.25-0.5 mlの静注投与となります

こちらもデキサメタゾンと同様に安い薬剤ではありますが、錐体外路症状やQT延長などに注意が必要です

ここでいうQT延長は一過性のQT時間の延長を認めることがある、ということです

QT延長症候群という遺伝性疾患をお持ちの方にはもちろん禁忌となりますが、術前検査でQT延長を指摘されたからといって使用禁忌となる訳ではありません

メトクロプラミド

次はメトクロプラミドです

みなさんご存知、プリンペラン®︎ですね

日本では1アンプル10 mgを静脈投与することが多いと思います

しかし10 mgでは予防効果が不確かであり、倍以上の投与で有効であるという研究結果が多いようです

皆さん、臨床的にはどうでしょうか

5-HT3受容体拮抗薬

次が冒頭でお話しした5-HT3受容体拮抗薬です

2021年に日本で術後の消化器症状に使用することが認可されました

実際にはオンダンセトロンとグラニセトロン(カイトリル®︎)の2剤です

成人であれば、手術終了時にオンダンセトロン4 mg、グラニセトロン1 mg静注します

上記3剤と比較すると高価ではありますが、重篤な副作用はないとされており積極的に使用していきたい薬剤だと思います

ここまでで4種類の予防薬剤を紹介しました

アルゴリズムの項目3によれば、

危険因子が1 or 2個あれば、この中から2剤を使用する

危険因子が3個以上あれば、3 or 4剤使用する

という使用方法になります

薬剤ではないのですが、

ガイドラインには鍼治療についても記載があります

経穴刺激療法といい、PC6の内関と言われる場所に針を刺します

円皮鍼などの特殊な針が必要となりますが、ない場合でも筋弛緩モニターのPTCモードを代用して有効性を示した論文もありました

レスキュー治療を行う

アルゴリズムの最後の項目はレスキュー治療についてです

予防薬剤で使用したものとは別のものを使いましょう、と記載されています

今回私が取り上げた予防薬剤は4製剤です

全て予防薬剤として使用してしまった場合、レスキューとして新たに選べるものがありません

ガイドラインでは抗ヒスタミン薬や抗コリン薬などが紹介されていましたが、個人的には臨床でみる限り、予防に使用した薬剤を再度使用しても十分効果があるなという印象です

オンダンセトロンの反復使用であれば、6時間空けて投与しましょう

麻酔科医である以上、PONVが少しでも減らせるよう、マメな努力を続ける必要があります

そしていつかPONVゼロの日が来ることを願いたいですね

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