【デスフルラン】青の刺客 -絶対王者を超えられるか-

麻酔

長年全身麻酔の維持薬として使用されてきた、「セボフルラン」と「プロポフォール」

「AOS」「AOP」として、今でも多くの施設で取り扱われているレジェンド級の2剤です

そして多くの麻酔科医が、この2剤による管理で不満を感じることなく使用してきました

この2剤は過去に取り上げていますので、まだ見ていない方はぜひそちらも見ていただければと思います

しかし、より良いものを、という飽くなき探究心から、比較的最近になって新しい薬剤が参入してきました

それが、

吸入麻酔薬であれば「デスフルラン」であり、

静脈麻酔薬であれば「レミマゾラム」になります

レミマゾラムは過去に取り上げましたので、今回はデスフルランについてお話ししていきます

ところで、デスフルランを皆さんは使用していますか

冒頭でも述べましたが、大多数の麻酔科医はセボフルランで不便なく麻酔管理をしてきたと思います

つまりこの多くの人たちにデスフルランへ目を向けてもらうためには、圧倒的なアドバンテージが必要不可欠です

これから私がデスフルランの特長を述べていきます

最後まで読み終えた皆さんが、デスフルラン適応の判断材料として少しでも参考にしていただければ幸いです

特長

私はデスフルランの特長を一言でいえば、

『セボフルランとプロポフォールのいいとこどり』だと思います

これが本当であれば圧倒的なアドバンテージになり得ますよね

具体的にどういうことかと言いますと、

セボフルランの使い勝手の良さと調節性のしやすさを持ちながら、

プロポフォールの覚醒の質の良さを兼ね備えている

ということです

これは言い換えれば、

デスフルランは

プロポフォールのデメリットである取り回しの煩雑さと調節性の難しさ

セボフルランのデメリットである覚醒の質のばらつき

を解消する鎮静薬、ということになります

使い勝手と調節性

プロポフォールはキットを組み立てる必要がありますし、手術中に何度かシリンジ交換が必要です

循環動態や脳波を見ながら濃度を調節する必要もあります

この際、点滴の速度や残液に目を配ることも忘れてはいけません

一方セボフルランは、液体を充填させておけば1症例で薬剤を追加することはほとんどありません

調節はダイヤルを回すだけとなります

吸入麻酔薬という点で同じであるデスフルランはもちろん後者になります

覚醒の質

覚醒の質の点から述べますと、

まず血液ガス分配係数が0.4とセボフルランを凌ぐ低さです

血液ガス分配係数についてはセボフルランの回でもお話ししましたが、

数値が低いほど溶けにくいということを意味します

肺や血液で溶けにくければ溶けにくいほど、使用開始時には脳までの到達が早くなり、使用終了後には脳や血液に止まることなく呼気から抜けていくのです

セボフルランを説明する際も血液へ溶け込みにくく、覚醒も速やかな鎮静薬だと述べました

しかしデスフルランはそれを上回るほどの溶け込みにくさだということです

実際に長時間使用しても体内から排出される時間が延長しなかったと結論付けている論文を紹介します

Tutorial: Context-Sensitive Decrement Times for Inhaled Anesthetics

上図の (C) を見てみると、3時間を超えるデスフルランの使用でも体内から90%排出されるまでに時間の延長がないことがわかります

一方で (E) を見てみると、95%の排出となると使用時間とともに排出時間が延びています

それでもセボフルランと比較すると、大きな差がありますね

これがプロポフォールに似た “覚醒の質の良さ” にあらわれるのです

個人的には、

プロポフォールは目覚めた直後から “スッキリ感” がみられますが、

デスフルランは手術室を退室するときには “スッキリ感” がみられる

といった違いがあるように感じます

また血液だけではなく、筋肉や脂肪にも溶けにくくなっています

こちらを存分に活かす麻酔管理を挙げると、肥満患者の全身麻酔ではないかと思います

下の図をご覧ください

Faster wash-out and recovery for desflurane vs sevoflurane in morbidly obese patients when no premedication is used

BMI 50 g/㎡前後の肥満患者を対象にした研究で、有意差をもってデスフルランの肺胞内濃度がセボフルランに比べて速やかに低下しました

これはまさに、脂肪への溶けにくさがもたらす結果だと思います

また、体重に関係なく気道反射の回復時間も早いという研究結果もあります

Effect of increased body mass index and anaesthetic duration on recovery of protective airway reflexes after sevoflurane vs desflurane

これは嚥下機能の改善に直結するため、術後の合併症やQOLを考えてデスフルランを選択する、という根拠になるかもしれません

ここまで読んでいただいて、『圧倒的なアドバンテージ』を感じていただけましたか。

感じていただいた方も、またそこまで感じなかった方もいるでしょう

これらの知識を得た上で、皆さん1人1人が各症例ごとに考え、麻酔方法を選んでいただければと思います

欠点

最後に、少しデスフルランのマイナス面について話させていただきます

やはり吸入麻酔薬の副作用として切っても切れないもの

それが「PONV」です

デスフルランもセボフルランと同様の発生率でPONVを起こします

少しセボフルランより持続時間が短いという報告もあるようですが、

そもそも出現すれば、患者は辛いことには変わりありません

本当に見ていてこちらも辛いですよね

麻酔科医ができること、それは現時点で、予防対策を徹底的にするしか方法はありません

おまけ

デスフルランのマイナス面によく気道刺激性という言葉が出てきます

「セボフルランと比べて、気道刺激性が強いため小児全身麻酔の導入に使用できません」とか、

「声門上器具を使用した全身麻酔では喉頭痙攣に注意が必要です」といったことを聞いたことがあると思います

デスフルランの気道刺激性に関する私の見解を以下のようにまとめます

気道刺激は、

『1 MAC (6%)以上の使用、もしくは急激な濃度変化により生じる』

  • 導入 → 現実的には使用不可 (必然的に急激な濃度変化になってしまうから)
  • 維持 → 1 MAC以下なら問題なく使用可
  • 覚醒 → 十分な麻薬を使用して抜管時の咳反射に備えよう
Airway reactions and emergence times in general laryngeal mask airway anaesthesia: a meta-analysis

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