全身麻酔には大事な “3要素” があります
それは「鎮静」「鎮痛」「不動化」です
さすがにこの3つは麻酔科1年生の皆さんもおわかりですね
ではこの3つに必要な薬剤をざっと挙げてみます
けっこうたくさんありますね
皆さんは、これら全ての薬剤を1度は使ってみたことがありますか
正直ほとんど使ったことがない . . . というものもあるでしょう
われわれ麻酔科医は、たくさんの薬剤を使いこなしていかなければなりません
そのためにもこれらの薬剤を1つ1つを正確に理解していくことが必要となります
そして理解をしていくと、どんどん麻酔が楽しくなっていきます
これは、本当ですよ(笑)
ここでは少しでも早くこの楽しい世界へと近づけるよう、解説していけたらなと思っております
今回はその第1弾、『プロポフォール』についてお話ししていきます
プロポフォールは鎮静薬として麻酔科医が最も使うと言っても過言ではありません
ぜひこの薬の理解を深めていきましょう
今回はこちらの書籍を参考にさせていただきました↓↓
プロポフォールの特徴を挙げてみると以下の通りです
項目に分けて少し掘り下げていきたいと思います
アレルゲン
まずはプロポフォールにはダイズ油と卵黄レシチンが含まれています
大豆や卵アレルギーの患者には使用を控える方が良いでしょう
ただし卵アレルギーの多くは卵白由来ですので、術前にしっかりと情報をとることが大切です
短時間作用
作用は基本的に短時間です
効果が発現するまでの時間も最大効果に達する時間も、持続時間もそうです
そのためプロポフォールによる鎮静は覚醒が早い印象があるかと思います
わたしもそう認識しています
ですが、「覚醒が早い」=「薬剤がすみやかに排泄されている」というわけではありません
下の図を見てください
中央コンパートメント濃度はすみやかに低下しています
しかしその分、除去量が増えているわけではありません
ここで急にわからない言葉が出てきましたね
コンパートメント??
薬物動態を語るときによく出てくる言葉です
ここでコンパートメントの説明をすると、本旨から大きく逸れてしまいますので簡単に言い換えておくだけにします
中央コンパートメント → 臓器
末梢コンパートメント → 脂肪組織
ということは、
プロポフォールを投与すると、すみやかに各臓器へ到達し、すみやかに排泄される
というわけではなく、
すみやかに各臓器へ到達し、一部は脂肪組織に溶け込み、一部は排泄される
という解釈になります
肥満患者の管理などには要注意ですね
また高齢者にも注意が必要になります
下の図を見てください
プロポフォールで全身麻酔の維持をした場合、20歳と80歳の濃度推移に大きな変化はありません
しかし、20歳と80歳のEC50についてはどうでしょう
なんと、2倍以上の差があります
つまり80歳の患者に20歳と同様の濃度を目指してしまうと過量投与になり、なかなか覚めてくれない可能性があるのです
代謝経路
プロポフォールはほとんどが肝臓で代謝されます
言い換えれば肝臓が良い状態でなければ、使いにくい薬剤なのです
例えば、肝硬変患者や肝臓手術で血行遮断を必要とするものを管理する場合、プロポフォールの減量を考慮しておく必要があるのです
CSHT
プロポフォールと言えば、CSHTです
CSHTは持続投与中止後の半減期のことです
図で示す通り、プロポフォールはCSHTがほとんど変化しません
これがプロポフォールでの鎮静がすみやかに覚醒する印象を持つ理由の1つでもあるでしょう
ただしこの見方には注意が必要です
半減期(50%)は変化がほとんどありませんが、70%となると話が違います
グラフを見ての通り、50%と70%では比べものにならないほど傾きが違いますよね
プロポフォールでも一定数で薬物の遷延がみられるのです
それは「高齢者に注意」というところでも述べました
総じて、効果部位濃度が低い値で覚醒する患者はこれに当てはまると言えますね
血圧低下
プロポフォールの弱点の1つはこれです
鎮静薬は基本的に血圧低下を招きますが、プロポフォールはその中でも顕著です
心臓疾患等がある患者にボーラス投与で使用するときは要注意となります
脳外科手術
その一方で、プロポフォールは脳外科手術で大活躍します
脳代謝率、脳血流量、頭蓋内圧全てを下げる働きをします
これはほとんどの脳外科手術で好都合となります
また、脳外科手術ではしばしば誘発電位モニタリングを行います
プロポフォールは吸入麻酔薬と比較して、この誘発電位を抑制しません
これもまた好都合な点になりますよね
制吐作用
プロポフォールは言わずと知れた「PONV」対策薬剤です
これに関しては詳しい説明は一切不要ですね
血管痛
そして血圧低下と並ぶプロポフォールの高頻度合併症が、血管痛です
いざ麻酔を始めよう、というところで
初っ端にまず痛がらせてしまう、というなんとも理不尽な合併症です
もちろん対策はあります
・オピオイド先行投与
・リドカイン先行投与
ぜひ試してみてください
プロポフォール注入症候群
こちらは稀な合併症ではありますが、死亡例もある重篤な合併症です
手術室で問題になることはまずありません
というのも、これはプロポフォールの長期投与に伴う合併症であるからです
いまだ原因や極量、危険因子等ははっきりとした結論に至ってはいません
プロポフォールを長期投与を要する際は、必ずこの合併症を頭に入れておきましょう
今回の参考資料はこちら↓↓
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