今回のテーマは『筋弛緩薬』です
筋弛緩薬の中でも特に使用頻度の高い「ロクロニウム」
その使用方法を説明した上で、筋弛緩モニターや拮抗薬であるスガマデクスについても触れていきたいと思います
今回はこちらの書籍を参考にさせていただきました↓↓
Q&A方式になっており、辞書としても使いやすい本だと思います
ロクロニウム
まずはロクロニウムの導入時投与量についてお話しします
添付文書では0.6-0.9 mg/kgと書かれています
この振れ幅にはどのような違いが生まれるのでしょう
下図をご覧ください
1つは作用発現時間に違いがあります
0.6 mg/kg投与と0.9 mg/kg投与とでは8秒の差があるようです
麻酔科医になった皆さん、これをどう捉えますか
たった8秒、と思う人が多いかもしれませんね
そもそも一般的な麻酔導入には長い時間を要しません
その中での8秒です
どうとらえるでしょうか
また添付文書からは逸脱してしまいますが、1.2 mg/kg投与した場合、
作用発現時間は55秒という結果です
数値については人それぞれ考え方は違うかもしれません、が
少なくとも投与量を増やすことで作用発現時間を短縮することができる、
ということは間違いありません
一方で作用持続時間はどうでしょうか
こちらは0.6 mg/kg投与と0.9 mg/kg投与とでは20分の差が出ています
こちらは皆さん、大きな差があると感じるのではないでしょうか
とすると、
予定手術時間が30分と言われているにもかかわらず、何も考えず0.9 mg/kg投与することはいかがなものか…となりますね
これらから考えなければならないことは、
なるべく早く麻酔導入を終わらせることはもちろん大事なことですが、
手術時間を考え、必要以上に投与しないことも同じように大事なことだということです
話は変わりますが、
麻酔維持をAOPもしくはAOSでおこなった場合、どちらの方が筋弛緩薬が早く切れるでしょうか
こちらは答えが出ています
正解は「AOP」です
上記では15分の差が出ていますね
こちらも全身麻酔管理をしていくなかで、知っておかなければならない薬理作用です
筋弛緩モニター
ここまで読んでいただいて、
筋弛緩薬をしっかり理解することが、安全に全身麻酔を管理していく上で重要なんだなということがなんとなくわかってくるかと思います
日本麻酔科学会でも2019年に安全に麻酔をおこなっていくため、筋弛緩のチェックを重要視するよう指針を改めました
ここで筋弛緩状態をチェックをするために必須のデバイスが、
『筋弛緩モニター』なのです
次は、この筋弛緩モニターについてお話ししていきましょう
筋弛緩モニターはここ最近出てきたものではありません
しかし他のモニタリングに比べ、使用する頻度はお世辞にも多くありませんでした
その原因の1つが、準備の手間です
かつては血圧計や心電図などと同じモニターには表示できず、別にデバイスを用意しなければなリませんでした
さらにモニタリングするために複数の装着品があります
先ほどもお話しした通り、一般的な麻酔導入にはさほど時間はかかりません
その中で、筋弛緩モニターの装着は煩わしかったのです
しかし、ここ最近のデバイスの開発によりこの煩わしさは一気に解消されました
“TOF-cuff®︎”や“筋電図方式の筋弛緩モニター”がそれに当たります
詳しい説明は割愛しますが、
手術室で入室と共に必ずつけるSpO2モニターと同じように、筋弛緩モニターも装着することが当たり前、となる日が近いかもしれません
それでは本題に入ります
筋弛緩モニターには、いくつかのモニタリング方法があります
その中で、特に使用頻度の高い「TOF」と「PTC」について、ここではみていくことにしましょう
TOF
まずは「TOF」についてです
通常、強い電気刺激を加えるとFade現象という反応が起こります
Fade現象とは、ある一定の時間刺激を与える続けると刺激による反応が鈍くなっていく現象です
TOF刺激により、このFade現象がどの程度起こっているか
これを把握するのがTOFというモニタリング方法なのです
ちなみに、
「2Hzの刺激を0.5秒ごとに4回刺激」というのは
モニタリングするにあたって、最も効率の良い刺激方法なのだそうです
TOFには、“TOF比”と“TOFカウント”というものがあります
まずTOF比とは、
4回刺激のうち、1回目と4回目の刺激の比率を表します
筋弛緩薬を投与していない状態ではTOF刺激でFade現象が起きることはありません
TOF刺激は非筋弛緩下ではFade現象が起きないよう調整された刺激なのです
しかし筋弛緩薬を投与すると、閾値が下がりFade現象が現れます
すると1回目と4回目の反応は異なるようになるため、
TOF比は100%から、90% .. 60% .. 20% … となっていきます
筋弛緩状態が深くなると、4回目の刺激が反応しなくなります
これがTOF比0%という状態です
しかし、この時点ではまだ1回目から3回目までの反応はあります
これを示すのが、TOFカウントです
3回目までの反応があれば、TOFカウント3となります
この後、さらに筋弛緩状態が深くなり1回目の刺激に対する反応もなくなります
これがTOFカウント0の状態です
ここが最も筋弛緩薬が強く効いている状態であり、導入時であれば挿管のタイミングとなるのです
PTC
次は「PTC」についてです
PTCは、テタヌス刺激という刺激を加えた前後の反応変化を見るものです
ここでまずPTCの前提条件をお伝えします
PTCでは刺激を加える前の条件に、TOF刺激に反応しない、すなわちTOFカウント0というものが必要です
TOF刺激に反応しない状態で、テタヌス刺激という強い刺激をある一定の時間与え続けると、その後の刺激に反応するようになるのです
刺激後の反応を12回の刺激のうちどのくらい反応するか、それを数えたものがPTCです
12回の刺激のうち4回反応すれば、PTC4となります
ここでもFade現象が起きているわけですね
使用方法
それではこの2つのモニタリングを実際どのように利用していくか、
導入、維持、抜管に分けて見ていきましょう
まずは導入時です
導入については先ほどTOFのところでほとんど説明してしまいました
初めてTOFカウント0となった時点が挿管のタイミング、となるのです
ただし、気をつけなければならない点があります
それはモニターの装着場所です
通常、筋弛緩モニターは母指内転筋をモニタリングしています
下の図を見ていただければわかると思いますが、
母指内転筋が十分筋弛緩が効いていても、呼吸筋が十分筋弛緩されているとは限らないのです
筋弛緩薬の感受性は筋肉によって様々です
横隔膜が最も感受性が低く、筋弛緩薬が効きにくく切れやすいのです
対応策としては、
十分な筋弛緩薬を投与する、モニターの装着場所を横隔膜に近い皺眉筋に変える、といったところでしょうか
続いて維持についてです
筋弛緩薬の追加タイミングをモニタリングします
導入時と同様にモニターの場所によって把握できる場所が変わります
腹筋と近い感受性である母指内転筋でモニタリングをしていれば、お腹の硬さ具合を把握しやすいでしょう
皺眉筋のモニタリングであればバッキング対策に良いかもしれませんね
抜管のタイミングはどのようにみればよいでしょう
数値で言えばズバリ、TOF比100%を越えたところで抜管です
ここでも大事なのはモニター装着場所です
母指内転筋でモニタリングしていてTOF比100%であれば、眼輪筋や声帯筋、横隔膜は筋弛緩薬の効果は切れているでしょう
問題は咽頭筋といった筋弛緩薬の感受性が高い筋肉についても十分効果が切れているか、というところです
こちらについてはTOF比100%であれば概ね回復しているそうですが、投与していない術前と比べると機能は劣っている可能性があります
どうですか、皆さん
筋弛緩モニターを装着することで、より安全に麻酔管理を行うことができるんだなと感じることができましたか
最後に筋弛緩薬の残存から起こりうる再クラーレ化についてお話ししたいと思います
再クラーレ
残存筋弛緩とは、その名の通り抜管して臨床上問題ないと判断した後に残っている筋弛緩のことです
それでも本人の症状や検査値から、異常なしと判断された場合は問題ありません
しかし、病棟に戻った後に呼吸苦を訴えるといった症状が出た場合、
これを“再クラーレ”、“再クラーレ化”というのです
起こりやすい状況としては、
筋弛緩モニターを装着せずスガマデクスを投与したり、
高齢や腎機能異常であることを考慮せずスガマデクスを投与したり、
麻酔科医判断で筋弛緩拮抗薬を投与せず抜管したり、
といった場合です
絶対に起こらないという方法は現時点ではありませんが、
発症する確率を最小限にするためにも、筋弛緩モニターの装着やスガマデクスの適正量投与、臨床所見の把握などをしっかり行っていくことが重要だと思います
おまけ
加速度計筋弛緩モニターを接続する際に、加速度計の装着する方向に注意しましょう
母指内転筋でモニタリングする場合は下図のように装着します
刺激により母指が内側方向に動くため、凹凸の凸側を表向きにします
皺眉筋でモニタリングする場合は下図のように装着します
刺激により眉間が矢印の方向に動くため、凹凸の凸側を内側にします
皺眉筋でのモニタリングでは刺激電流を30mAに下げることも忘れずにしてくださいね
今回の参考資料はこちら↓↓
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